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映画って大変なんです、だからすごい『童貞幽霊 あの世の果てでイキまくれ』
映画が当たる当たらないの難しさは、大物量PRを展開したとしても、当たらない作品がある。1年間でたまにあるのが、気がついたらブレイクしている作品もあったりするし、「映画ビジネスはバクチだ」とうそぶき、「銀行から貸してもらえるかどうかが鍵」とか。製作委員会方式になっているのは、リスクヘッジが理由なのは、一般の方でも知っていると思います。
最近はPR活動は大事ですし。番宣として、地上波バラエティ番組に登場し、「アポなしでお店を取材」したりする映画俳優たち。俳優のテレビ出演のギャラはとてつもなく高い設定になっており、それがパブ活動だと安くなるので出演させるというカラクリはありますが、それはそれで契約書に一筆入っているようです。
PRに汲々している映画ですが、「ピンク映画」が公開前にWikiが作られる話題がネット界隈で騒がれました。R18というカテゴリーだからこその難しさを物語っていますね。そんな珍しい現象を起こしたのが、『童貞幽霊 あの世の果てでイキまくれ』です。
上野オークラ劇場で、11月15日から21日まで上映された作品は、ピンク映画の宿命として、1週間で地方のピンク映画上映館へと移っていますので、身近な上映館に来た方は見逃さないようにしましょう。
監督は、塩出太志監督。OP PICTURES+フェスの一環として開催している、「新人監督募集」(新人映画監督の募集というよりも、ピンク映画を撮りたい監督募集)で、『OP PICTURES新人監督発掘プロジェクト2017審査員特別賞』を受賞されまして、このたび映画化されました。
塩出監督は、『死神ターニャ』で商業監督デビュー。そして『時時巡りエブリデイ』で鳥居みゆきの主演作を撮影して話題になった監督です。なので、今作のスタッフおよび俳優陣は、塩出監督周辺から配置されています。ピンク映画おなじみの俳優さんなどがあまり出ていないのも特徴といえば特徴でした。
主演は、本人が映画監督を務める企画、「監督処女 戸田真琴実験映画集プロジェクト」でクラウドファンディングを成功させたまこりんこと戸田真琴ちゃん。ピンク映画は2作目ですが、毎度、監督が特徴的(前作は榊英雄監督)なのも、まこりんらしいといえばらしいかもしれません。
今作を観て最初に思ったのは、「ピンク=ヌードだったり絡みだったりをメインに添える映画」だからこそ、外向けに主張して、映画館観る人たちを増やしていかなければならない行動が必要であるということでした。今作で注目を集めていたのが、監督の映画に出演しているとはいえ、ピンク映画初出演となった(絡みなど一切ありません)の鳥居みゆきさんと、まこりんの融合だったことが理由ですね。
映画らしいトリックに溢れた作品がみんなを翻弄する
『童貞幽霊 あの世の果てでイキまくれ』は11月16日舞台挨拶が開催されました。登壇者数が過去最高の13人!鳥居みゆきさんが飛び入り参加して、さらに会場を盛り上げておりました。
そのトークショーで言われていたのが、出演したまこりんときみと歩実ちゃんが、「誰が誰で、自分は誰なのか?」となり、台本に人物相関図を書いて整理していたという話。イベント前に観ていた劇場の観客からも、「何がどうなっているのか??」と難解さがイベントに使用される観客の声にも多数上がっていた気がします。
オチに関して語るのは、映画評論として最悪なので(笑)ここには記載しませんけど、ちゃんと監督はたくさんヒントを散りばめており、そこを最後に向かって一気に回収していく手法になっていますよ。映画王道中の王道です。
1987年公開『エンゼル・ハート』(ミッキー・ローク、ロバート・デ・ニーロ出演/アラン・パーカー監督)なんかが、「どのタイミングで、オチに気づくか」なんて見方があったことを思い出しました。あの映画もちゃんとわかりやすく、ヒントが散りばめられていました。
映画は、別に難解さを競うものではありません。途中のスリリングさをいかに持続させて、エンディングで感動しようが恐怖しようが、日常のなかのその人なりのモヤモヤを想起させ、解放させて、脳裏に残させることが重要だと思います。
ちなみに、撮影中のエピソードで、まこりんの役名が「歩美」。きみとちゃんは「歩実」で、呼ばれたときに、「役名なのか名前のほうなのか」で、現場はモヤモヤ、本人たちが混乱していたようです。監督は、「たまたま偶然です」と答えていましたけど、本当なのかなぁ(笑)混乱の天丼状態(笑)
劇中の歩美(まこりんのほう)の行動ひとつひとつが、作品のテーマのヒントになっていましたので、彼女に注目するのが1番わかりやすいと思いました。さらに、出てくるキャラクターすべてが要素を持っています。しじみさんの地縛霊なんて、ピンク映画としての理由付けだけでなく、オチを初めのほうから丸出しにしてました。劇中に妙に映される背中は、正常位、シャワーなど、エロいシーンときちんとした融合で、幻惑させたのでしょうね。素晴らしいと思いました。
11月16日舞台挨拶〜映画らしい、演者と監督のトークが盛り上がる!
一般映画だろうが、ピンク映画だろうが、映画であれば全く同じなのが、出演者が登壇しての舞台挨拶です。「○○、サイコー!」とか(笑)
「用意された質問を予定調和にこなす」映画もあれば、用意はしているけれど、質問を演者に見せない、「崩れる世界観」を楽しむ映画もあります。ピンク映画は後者。MCを務めるイケメン支配人と4代目上野オークラ劇場マスコットガールの歩実ちゃんが、映画を観て考えて用意された質問を、その場で聞いていき、出演者が答えていきます。
あゆみんは、映画好きであり、演者であることがよくわかる、細かい部分を質問する、「質問強者」なのですが、今作は演者のひとりなので、感想を述べる側になってましたので、普段の切れ味とは違う魅力がありました。
いつもならば、「わかる!」と演者としての気持ちを含めた質問をしたりするのが面白いあゆみん。一度、上野オークラ劇場のトークイベントを見るのはおすすめですよ。観た人と同じ目線で質問を聞いてくれます。トークだけでなく、サイン入りポスターのジャンケン大会があるし、イベント後にサイン会もありますので、上野オークラ劇場のイベントは必見ですよ。絶対に一度ご覧ください。
12月28日は川上奈々美ちゃん、辰巳ゆいさん、工藤翔子さん、竹洞哲也監督に、マスコットガール・きみと歩実が登壇しますので、映画も含めてぜひご覧ください。
上野オークラTwitter▶︎@UenoOkura
今回のトークは、監督も饒舌であり、まこりん、あゆみんはもちろん、加藤絵莉さんも素直に答えてくれていました。初登場の西山真未さんは劇内とまったく違う印象の美女です。劇中の女子たちは、それぞれに性格がガッツリあるのと、共通項である、「台本が難解」というところから、それぞれの役柄を作り上げていたそうです。
「役を作るため、監督のことを、本読みのときからジッと見ていた(笑)」(加藤絵莉さん)
「幽霊役とはいえ、すっぴんになったのがちょっと(笑)」(きみと歩実さん)
「ピンク映画では、絶対に男性を攻撃するシーンが私にはあり、普段あり得ないので、ちょっとストレス発散になっていました(笑)」(戸田真琴さん)
などの女優陣の裏話や、出演している俳優たちが、ここぞと監督への不満を述べたり(笑)。関係者トークを聞くと、本当に映画というのは監督が全権を持っているのがわかります。役者さんは全員が全員、「言わされました」という状況です(笑)
監督が、鳥居さんを起用した話を、「普通に事務所のHPからオファーしました」と説明していたところに乱入したのが、閻魔様(女王様というのが笑えます)の鳥居みゆきさん。
「みなさんと会うのは初めてです(笑)私はずっとグリーンバックにいましたので(いつもの真顔)」とCGらしいエピソードひとつが、会場を爆笑に誘います。ピンク映画は3本立てで動くのですが、別作品のタイトルを言って、「さらに観てください」とアピールする、爆発しまくりのトーク力で、一瞬のうちに映画館の視線をかっさらってました。
映画に出た理由を聞かれた鳥居さん、「マネージャー判断です」でさらなる爆笑をかっさらっていました(笑)
AV女優の外向けの仕事の意味を知りたい!?あらゆるポルノは戦いの場に晒されている
舞台裏で、まこりんが、「鳥居さんのトーク力を身につけたい」と語っていたのですが、戸田真琴ちゃんは、とても上手な部類に入ると思います。同じくマスコットガールであるきみと歩実ちゃんもまた臨機応変に対応できるトーク力があると思います。
なんでAV女優がトーク力?と思うことでしょうけど、AVじゃない仕事があり、外向けのアピールをすることで、通常のAVを購入してくれるAVファンじゃない人に、アピールすることが重要だからです。AVはDVDだけでなく、サブスクでの有料視聴が数値に入っています。違法動画は問題なのですが、それですら人気がなければ元ネタにならない、ヤバいの二乗です。
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戦う女子を見守る男子・AV女優をどう応援したいですか?
AV女優になることはすでにリスキーです。どれだけ隠してもバレてしまうことはあり得ますから。説明なんてされないかもしれないけれど、仕事をするうちに気がつくでしょうし、気がつかない女子は気がつかないでしょう。
みんなの夢と願望を、みずからの肉体を駆使して描いてくれるAV女優。ピンク映画に出た場合、脱ぐ女優さんとの共演で発覚する、「リアルなSEXをしなくてもリアル以上にエロくなれる」こと。だからこそ勝負するポイントは、演技を鍛えられた女優よりも上をいく能力です。
デリヘル嬢は、好きだからの理由で長時間拘束するが可能です。でも、その女子が何かから開放されるのかどうかわからない。だとしても、その女子にとっての癒しになっている可能性は0ではないし、0以上になる可能性があります。
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AV女優さんを好きになり、イベントに駆けつけて応援し、物販に並び会話をすること。どうしても2020年、令和の日本人は、「もっともっと」と望む、幸せが欲しいシンドロームに罹患しています。優しさが重さを持ってしまっているのですが、それはそれ。応援する人たちにとって、「自分が好きと思っているAV女優」以外に、癒しを解消することはできないでしょう。
戦っているAV女優のバックアップとは、どういうことか。応援することなのか、必ずイベントに参加することなのか、それはご自身で考えてもらいたいと思います。AV女優がみなさんを頼ることは事実なのですから。
まとめ〜『童貞幽霊 あの世の果てでイキまくれ』が見せてくれた自己愛と他者愛
『童貞幽霊 あの世の果てでイキまくれ』は、塩出監督の能力と、オークラ映画のPRが合致して、外向けなアピールに成功したと思います。まこりんの存在も大きいと思いますね。またピンク映画は「OP PICTURES+フェス」などのR15作品にすることで、エロだけでない映画としてのアピールが広がっています。
もちろん、「だからこそ置いていってしまった世界観」があるかもしれない。ファンであればなおさら思うことですから。
映画に関わる外側の話をメインとしてしまったので、作品から見えてくる話でまとめたいと思います。
自己愛に至る人間心理は、自分を守ることです。だからこそ今作の主人公は混乱する世界に巻き込まれていきます。反面、他人に気遣いをする、親の愛情を思い出していくなど、他者愛が主人公の意識に生まれていきます。
バランスが崩れるからこそ、作中に、邪悪の化身が誕生し、パワーバランスを保つべく閻魔様がこの世に現れます。誰かが何かを自分のために頑張っているけれど、それをちゃんとわかることも少ないどころか、気づかないことが当たり前にあります。それを客観的に見せてくれるから、映画的ロマンが誕生するのです。特にピンク映画は、いろいろなエンディングがありますが、ハッピーを描くのが良いところだと思います。
自分に何かが起これば、他人を愛せなくなることがあるでしょう。それでもなお愛することが重要であることを、AV女優は職業として存在しています。
刺激あることは、燃えやすく冷めやすいかもしれないけれど、日常として恒常的に愛し続けること、信じて一緒にいる時間を過ごすことができるかどうか。『童貞幽霊 あの世の果てでイキまくれ』が教えてくれることは、簡単にできそうでできないかもしれないこと。でもできたならば、周囲全体をハッピーにさせてくれることのような気がするのです。