エロ本がコンビニから消える。エロ本業界は?起こりうる問題は?

さようなら、コンビニ成人誌

2019年8月末までにセブンイレブン・ジャパン、ローソン、ファミリーマートのコンビニ大手3社が「成人向け雑誌」の販売を原則取り止める、との発表がありました。

2020年に開催される東京五輪に向けて増加が予想される外国人観光客へのイメージ低下の防止、さらに子供や女性が多く来店するコンビニに成人向け雑誌が置かれていることへの批判の高まりを受けての決断、ということでしょう。

 

この発表を受け、ネット上ではさまざまな意見が溢れました。

批判的なものもありましたが、販売取り止めを歓迎する意見が大多数であった印象です。

中でも多かったのが「コンビニで買えないのならば、書店やネットで買えばいい」という意見でした。

 

確かに、成人向け雑誌を購入する層は減少していると思われます。

誰もが気軽にインターネットに触れることができるようになった現在、ネット上でアダルトコンテンツは簡単に閲覧できます。

しかも、一時の欲望を満たす……簡単に言えばオナニーのネタとして使う分には、無料で見られるエロネタがネット上には溢れています。

わざわざお金を出して、恥ずかしい思いをしてまで成人向け雑誌を購入する理由はなくなっているのです。

 

そのような状況に加えて、コンビニの成人向け雑誌販売の取り止めについて、業界はどのように考えているのでしょうか。

成人向け雑誌を実際に制作している編集者に話を聞いてみました。

 

「来るべき日が来た、というだけ。諦めの境地です」

「コンビニで成人誌を売れなくなる、という話はもう何年も前からありました。

そういう意味では、制作現場も『ついに決まったか』という感じですね。

大騒ぎ、ということはありません」

 

匿名を条件に話を聞かせてくれたのは編集者のKさん。

大学卒業から中小出版社に入社し、成人誌を30年近く作り続けてきたベテラン編集者です。

 

「コンビニ成人誌を作れなくなる、というのは確かに大きな痛手ではあります。

売り上げが減少している、と言ってもコンビニの棚は大きな販売場所ですから。

コンビニ向け雑誌を書店向けにリニューアルしたり、一般向けの雑誌を販売したり、と切り替えるのは当然ですが、今までコンビニから得ていた売り上げ分をカバーすることは簡単ではないでしょう」

「でも、文句を言っていても仕方がない。

食べていくためには意識を切り替えて新しいものを作るしかない。

一種の諦めの境地ですよ」

 

それではやはり、成人向け雑誌を買いたければ書店やネットで購入するしかないのでしょうか。

そう尋ねると、Kさんは「うーん」と腕を組んで悩んでいるような表情を見せました。

 

「そもそも成人向け雑誌を作れなくなる可能性もある」

「もちろん書店やネットで買ってもらえればありがたいです。

でもそれは、あくまでも『成人誌を作り続けられれば』の話になります」

「コンビニに雑誌を置く最大のメリットは、ある程度の部数が確保できる、という部分です。

セブン、ローソン、ファミリーマート、これがなくなるとなると、一気に数万部の売り場が消えることになります」

「コンビニ成人誌の基本は『薄利多売』。

部数が多ければ印刷などの製造費が抑えられ、値段もある程度下げることができます。

コンビニ成人誌の値段は、高くても1000円程度ですよね?」

「それが不可能になると、値上げは避けられません。

一冊1500円とか2000円とかになる可能性もあります。

そして、もともと書店を中心に売られている雑誌類との競合も発生するわけですから、売り上げの確保がさらに難しくなる。

その中で雑誌を出し続けるメリットが出版社にあるのか。

単純に今コンビニで売っている雑誌を書店で売ればよい、という話ではないんです」

「コンビニで雑誌を売るメリットは、偶然手に取って購入してくれる方が多い、ということもあります。

仕事終わりにビールやおつまみを買って、たまには成人向け雑誌でも買ってみるか……という方。

書店やネットだと、こういうお客様はいなくなってしまいます。

今までコンビニ成人誌を出してきた出版社は、この機会に成人向け雑誌自体を止めてしまう可能性も高いですね」

 

成人向け雑誌に未来はあるのか?

かなり厳しい状況に置かれた成人向け雑誌業界。

Kさんはこの状況についてどう思っているのでしょうか。

「長年編集者として関わってきた業界ですから、完全になくなることはないと思いたいですが……正直な話、未来は暗いでしょうね」

私が定年を迎えるくらいまではなんとか頑張ってほしいですが、とKさんは苦笑いを浮かべました。

「そもそも、若い読者の方がほとんどいません。

編集部に届くアンケートハガキを見ても、中心は50代以上、若くても40代。

この方たちがいなくなったら、自然消滅しかねない業界です」

「ただ、成人向け雑誌を必要としてくださっている方たちもいらっしゃいますから……」

Kさんはそう言って、大手コンビニが成人向け雑誌を売らなくなる、というニュースが流れた後に読者の方から受けたという電話の話をしてくれました。

「その方は心身にハンディキャップをお持ちで、コンビニから成人誌がなくなったらどこで買えばいいのかわからない。

書店は遠くて出かけられないし、ネットも扱えない、という方でした。

『どうすればいいんでしょうか』と聞かれたのですが……どうにも答えようがありませんでした」

「『もう買えなくなるかもしれません。

今までありがとうございました』と言われてしまって……

その日は落ち込んでしまって、仕事が手につきませんでしたね」

 

「もちろん、そういった方たちだけのためにコンビニに成人向け雑誌を置き続ける、ということが難しいことも承知しているんですが……」

Kさんは「そういった方たちのためにも、もう少し頑張ってみようと思います」と話を締めくくってくれました。

非常に難しい問題だと思います。

どうすればよいのか……その答えは、取材から数日経った今でも出ていません。