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2019年12月いっぱいで引退する神咲詩織というAV女優
2019年という年は、AV女優ファンにとっては、トラウマとして深く刻まれる年になると確信しているのは、私だけでしょうか。たくさんの人気AV女優が引退を発表しております。そのひとり、かみしおこと神咲詩織ちゃんのAV女優引退がTwitterにて発表されたとき、数多くのAV女優ファンの驚きと、かみしおファンの慟哭が聞こえてくるような気がしました。
「AV女優はいつかは引退する」
こんな当たり前のようなことが語られていても、意外とその状況に遭遇しなければピンとこないでしょう。ファンとして、DVD発売記念サイン会などのイベントなどに行っていない人、作品としてのAV女優だけを見ている人たち(ユーザーはこれが大多数)ならば、数多いるAV女優のひとりが、新作を発表しなくなるぐらいかもしれません。
AVとは違う、「刻まれた記憶」となる写真集の発売
ちょうどこの原稿を書いている最中、神咲詩織さんがAV女優引退記念写真集制作にあたり行った、クラウドファンディングのひとつである、「神咲詩織×福島裕二写真展」(11/20〜12/1に渋谷ギャラリールデコにて開催)をスタートさせた日でした。
AV女優にとっての写真集は、時代によっていろいろな見え方があります。その昔、潤沢な予算を使って、海外ロケで作成されていた頃は、撮影スケジュールにも余裕があって、主にハワイかサイパン(グアムはヌードが難しかった)ロケ。夜は食事という名の宴会が繰り広げられ、同行する事務所社長は朝からゴルフに興じていたり。雑誌内のグラビアでも海外ロケはたくさんありましたから、AV女優にとってボーナスのようなものでした。
その時代も終わり、海外ロケは朝から晩までスケジュールはパンパンに詰まり、写真集だけでなく、イメージDVDもセットされたロケ隊(予算を集め合うためですね)でずっと撮りまくり。何なら晩ご飯の後に室内撮りなんてことも。この頃はバリ島あたりが多かったような気がします。
そこからさらに近づくと、ほぼ国内ロケとなり、予算もかなりギリギリ。売れる部数も全く違いました。それでも、2008年から2011年ぐらいにデビューしたAV女優にとってみればステイタスのひとつ。毎月のようにリリースされ、消費されていくDVDは、商品として手元に残っているとはいえ、振り返ることが少ない。そこに行くとリリース数もキャスティングも限られている写真集は、選ばれしものとしてのお仕事だったようです。
SEXを見せるAVと、ヌードを見せる写真集の違い。言葉にすると分かりづらいかもしれないけれど、これは大きな差があります。グラビア中心のエロ本と、現場スチール中心のエロ本以上に違いますね。
最近はクラウドファンディングで予算を集めて写真集を作るということが登場し、AV女優の写真集が、書店とちょっとずれたところで脚光を浴びています。写真集を作り、リターンの一貫として写真展を開催する。かみしおの場合、これまで作られてきたオリジナル楽曲を、プロのアレンジを施し録音された、オリジナルCDも作成されました。
これを読んで興味を持たれた方は、ぜひギャラリールデコに足をお運びください。入場無料ですから。
【神咲詩織×福島裕二写真展】
開催日時:2019年11月20日(水)〜12月01日(日)
(平日13:00〜21:00/土日祝11:00〜21:00 ※最終日のみ17時クローズ)場所:
本会場:ギャラリールデコ 5F 6F
〒150-0002 東京都渋谷区渋谷3丁目16−3 髙桑ビルスピンオフ展会場:AtlierY(入場予約制)
原宿駅より徒歩10分 pic.twitter.com/lEnYXIM2lt— 神咲詩織引退写真集プロジェクト🐨現在写真展開催中✨ (@kamisaki_photo) September 7, 2019
AV女優・神咲詩織のもうひとつの顔「歌手活動」
「事務所に言われて始めた音楽活動だったので、『言われたことをやっていれば良いでしょ』くらいの気持ちでしたよ、最初は(笑)」
以前の麻雅庵とのインタビューで語ってくれたこの話は、かみしおが最初の本格的音楽活動をした「me-me*」というセクシーアイドルユニットの話です。かみしおは最初期からのメンバーです。
ダンスをやっていた、小さい頃からピアノをやっていた、音大出身で声楽をやっていた、絶対音感がある。これだけ聞けば、「音楽活動をやるだろう」と普通の人は音楽活動をするだろうと思うかもしれませんが、かみしおは「まったくと言っていいほど、ポピュラーは知らなかった(註※クラシックの人たちは、自分たち以外の音楽をポピュラーと呼びます)」わけで、ダンスはさておき、歌うのは意外と大変だったそうです。
「クラシックピアノには、コードの概念がありませんから、『A〜G〜Cのコード進行』とか言われても、何のことか分かりませんでした(笑)」とかの悩みは、クラシック経験者ならではなの悩みでしょう。
今でこそ、たくさんのAV女優のライブイベントがありますけど、彼女が活動していた頃は、最初の恵比寿マスカッツが終わった頃で、本当に少なかった。
音楽業界自体が落ち込んでいる状況であり、AV女優として人気者だから聴きにくる音楽ファンほぼいない。ライブの場を得るためにアイドルグループの対バンライブに出ても、それらのファンからは白い目で見られる。それでなくても、アイドルを辞めてAV女優になること=転落と受け止める人たちですから。
本人のファンだとしても、音楽を聴くだけならばまだしも、ライブ会場にいってサイリウムを振るなんて能動的な行動が苦手な人もいて、ファンが全員動員されるわけではないのもあります。
それ以上にあったのが、「AV女優が歌ってどうするんですか?」という話。私も取材に行っていることを話すと、業界人から言われました。「文化祭みたいで楽しそうですね」なんていうのはマシなほうで、会場は満員を説明しても、「そりゃ、あれだけの人気者なんだから」と言うし、動員イマイチと説明すると、「AV女優の歌を聴くわけがない(笑)」一笑に付して鼻にもかけてくれない。
地上波テレビに出てメジャーレーベルからCDデビューし、一般の目に触れたりすれば、マスカッツのような人気が出る状況もあり得ます。事実、サマーソニックの無料ライブスペースへの出演で、会場が大盛況となったそうです。ただし当時は、男子のみ盛り上がり、女子は、「あれ誰?」と怪訝な目で見て、AV女優と知って、盛り上がる男たちに侮蔑の視線を送っていたようです(笑)
そんな茨の道に等しいところを開拓していったわけですが、me-me*を担当した振付師の先生に一喝されてから、彼女たちはめちゃくちゃやる気になり、ダンスはK-POP並みのクオリティを発揮し、歌はハモリや主旋律などで牽引する役割を果たし、セクシーアイドルユニットとしてだけでなく、一般でも通用するレベルにまで進化していきました。それでも音楽業界からすると、他業種の参入を望まないし、メジャーに与しないとどうしようもない。2019年現在よりも明らかに厳しい状況だったわけです。
神咲詩織が参加した本格的ライブイベント「美女と野獣」
2019年において、AV女優は「AVじゃない活動」をたくさん開催しています。ほんの5年くらい前までは、お酒飲みつつのエロトーク的なものがメインだったのですが、気がつけば、たくさんのライブが開催され、エロネタではないたくさんのトークイベントが開催されています。そういえばストリップへの出演も圧倒的に増えましたね。もちろん、AV出演だけ、あってもDVD発売サイン会のみという活動の女優さんも大勢いるのですが、宣伝媒体の欠落と、DVD売上の減少、サブクス系動画配信の増加は、AV女優の立ち位置を変化させてきました。
その最先端にいたのが、かみしおじゃないかと思うわけです。
2011年にデビューしたかみしおは、所属していたmillionで「ミリオンガールズ2011」メンバーとして、メーカーキャンペーンに属する活動をしています。前述したme-me*に所属して歌手活動をしたり、スカパー!アダルト放送大賞に選ばれたり、第2期恵比寿マスカッツメンバーに選ばれたり。彼女の活動のなかに、必ず外向きのお仕事が含まれていました。
そんな彼女が、ボーカル&ピアニストの平方元さんと共演し、歌だけで勝負するライブイベント「美女と野獣」に何度か出演しました。AV女優を引退した沖田杏梨さんは、このライブが歌手活動の主戦場となっています。
「美女と野獣」ライブですが、大概はハモりパートを平方さんが担当し、出演する女優さんがメインを歌うのですが、かみしおの場合、「どちらでも良い」だけでなく、「その場でも対応可能」というクオリティーを誇ります。
ちょっとガチ感漂うライブですから、腰が引けるのはお客さんだけでなく、出演者も同じでして、音楽を知らないと楽しめないんじゃないか的な雰囲気がありますが(そうではないんですがね、音楽自体)、そこで毎回クオリティーを上げていき、集客を上昇させて言ったのがかみしおです。
この感覚、ちょっと難しいところですが、意外と「一度見たから」となりがち。日常生活、いろいろありますから優先したいイベントもあるでしょうし、趣味嗜好の問題もありますので、致し方ないところです。ある意味では逆風なライブを、実力で跳ね除けたのが、神咲詩織ということです。
2019年10月21日に開催された「美女と野獣 Vol.25」でのかみしおは、こんな楽曲を披露していました。
バラエティにとんだカバー楽曲がこちら。
「Beauty and The Beast(Celine Dion And Peabo Bryson)」
「舟歌(八代亜紀)」
「PRIDE(今井美樹)」
「今宵の月のように(エレファントカシマシ)」
「蕾(コブクロ)」
「NOCHIの色(平方元)」
オリジナル楽曲はこんなタイトルです。
「裸族〜For Lovers(神咲詩織)」自身が裸族であることと、カップルの生活環境の差異の話
「闇夜のきらり達(神咲詩織)」自分自身を含めたAV女優について
「我ら神DEATH(神咲詩織)」SNS上にいる「神」たちを「DEATH」と解説
ピアノ伴奏を披露したり、コーラスパートでも活躍したり。まさにデュエットとして機能している「美女と野獣」でのライブパフォーマンスでした。
ガチであるから良いわけでもない「AV女優のじゃない活動」
「歌がうまい」の価値基準は、カラオケの点数などがベースになっていることがほとんどです。そんなのは関係なく、可愛い子が歌っていればそれだけで満足というのは、スナックだろうがキャバクラだろうが、仕事先での二次会だろうが普通ですよね。
AV女優で歌が好きという子がライブステージで歌う。それを見るだけ楽しい人からすると、ガチに近くほど、ファン側が苦手となる可能性もある。
ライブに限らずイベントで望まれることは、「その時間を楽しむこと」です。だからAV女優の歌が、ガチ上手くなくてもライブでは全く問題はありません。むしろ、「AV女優だからこそ伝えられるメッセージ」を実感させることができれば大成功です。アイドルが歌っている楽曲でも、AV女優が歌えば、歌詞の意味や解釈が変わってくる可能性がある。むしろそこには感動が生まれる可能性だってあります。
かみしおのオリジナル楽曲「闇夜のきらり達」は、彼女のライブを聴いた同業AV女優が涙を流して聴いていました。歌詞の意味と旋律が、良いバランスで融合されたからこそ、涙が落ちてきたのでしょう。かみしおのファンたちも、どこか自分と融合するバランスがあれば、音程がどうとか関係なく感動しているのです。
歌手活動をしていく限りは、意外と「上手くなること」を求められますが、ライブは、カラオケ点数バトルではなくて、感動や歓喜を全身で味わうことが重要でしょう。
神咲詩織ちゃんのライブには、そんな空気が流れ、会場にいる人たちを超えて伝播していったからこそ、どんどん盛り上がっていったのではないでしょうか。
まとめ〜AV女優・神咲詩織の引き際と2020年から新たなる神咲詩織
AV女優を引退する、世の中の媒体からフェードアウトする。これはもっともポピュラーなAV女優の引退、最近は卒業というワードが使われますね。
ほぼ毎月、単体女優としてリリースを続けていたかみしお。AV以外にもピンク映画があったり、体を張った生活は2019年12月いっぱいでおしまいとなります。
しかし彼女は、歌手その他の活動を、神咲詩織として継続していくことを言っています。AV女優から、その名前のままで女優や歌手活動を継続している女子は少ないです。名前を変えて、普通の女優や歌手として活動をしているわけです。名前があるからこそ、人気がキープできるけれども、最近のコンプライアンス問題などで、足枷となることが多いのは事実でもあります。無意識の差別というのもあるんじゃないかと思います。
SNSなどで絡んできた、心なき人たちに対して、真っ向から意見を述べてきたエネルギッシュなかみしお。以前のTwitterアカウントには、「本人に聞く前にまずググれ」とありました(笑)彼女の作ったオリジナル楽曲「我ら神DEATH」は、その状況を素直に歌った内容。ポップなメロディーに乗せて、本音の吐露(笑)当たり前のことを当たり前に反応するだけで、攻撃されたりするSNSですが、真面目にぶち当たるところは、彼女の真面目な性格を物語っています。
かみしおが歩んできた、AV女優としての道のりは、今のAV女優の主流であり王道。ただし、彼女は平坦な道を歩いてきたわけではなく、デコボコだったり道が無くなっている場所を切り開いてきました。
彼女に限らず、AV女優は、存在するAV女優と同じ道のりはほぼ歩むことができません。容姿が違うとかの問題よりも、事情と状況がまったく違うから。同じような場所でも全然違ってくることが多いのです。
神咲詩織ちゃんが、2020年以降、どんな道のりを切り開いていくのか、それを追いかけることは、AV女優ファンならずとも楽しみで仕方ないでしょう。私は楽しみ(笑)
最後に、「かみしおさん、お疲れ様。そしてまた新しい顔で楽しませてください」
執筆=麻雅庵(https://twitter.com/an_asaga_otft)